像の考察
【1】制作年
完成は1951(昭和26)年。合計で約30個程度制作されたと言われているが、正確なところは不明である。
当初は金色であったが金と間違えての盗難を防ぐ為、直ぐに暗めの色に塗装しなおされたというエピソードが有名であるが、当時の写真などでは少なくとも1955(昭和30)年の時点で既に塗りかえられた状態になっている。
【2】モチーフ
「マーキュリー」とは、古代ギリシャ神話のヘルメスと同一視されるローマ神話の神であり、幸運、富裕、商業や交通を司るもので、旅人の守護神として題材に選ばれたものと考えられる。
像は抽象化された頭部がモチーフとなっており、「若者の希望に燃えた表情」を表現する為、制作の際にはベルリンオリンピック100m走の選手がスタートを切る瞬間の表情を参考にしたと言われている。
スピード感のある形状で、ダイナミックな造形が戦後の力強い希望を象徴していると評されている。
【3】作品タイプ
設置されている像には大きく分けて2種類が存在する。
これは銀座駅への設置以降、日本橋駅の設置に際し原型を作り直した為であるとされており、後から制作した物(後期)の方が僅かに大きく作られている。
また、全体的に後期のものの方がデザインが洗練された印象を受け、見比べてみると細かい部分に違いがある。
左:初期の制作(銀座駅) 右:後期の制作(池袋駅)
側面から見ると、後期に制作されたものの方が頭部の丸みが強調されており、目元のラインもはっきりしている。
また、首が長く顔のサイズも大きく作り直されているが、全体的に上下左右がほぼ同じ大きさをしている。
対して初期に制作されたものは顔の大きさに対して頭の後ろの羽根状のデザインが大きくとってあり、前後方向に長い形状をしている。
左:初期の制作(銀座駅) 右:後期の制作(上野駅)
正面から見ると、後期に制作されたものの方が僅かに横方向に広く、ほぼ左右対象の形状で見上げているような顔立ちになっている。
対して初期に制作されたものは頭部が小さくスリムな造形で、顔はやや正面を見ており、左右は非対称で僅かに首が右を向いているような印象になっている。
左:初期の制作(銀座駅) 右:後期の制作(池袋駅)
後面から見ると正面と同様、全体の大きさの違いや、後期に制作されたものの方がほぼ左右対称の形状をしている点が見てとれる。
また、羽根状のデザインは前期よりも後期の方が頭の丸みに沿って曲線がつけられている為、より立体的に見えている。
左:初期の制作(銀座駅) 右:後期の制作(日本橋駅)
像を上部から見ると、後期制作のものは頭部がより丸みを帯びている点や、後ろの羽根状のデザインは初期制作のものの方が長めに作られている点が分かりやすい。
左:初期の制作(銀座駅) 右:後期の制作(地下鉄博物館)
像の首の部分には制作者である笠置季男のサインが入れられている。字体にも違いが見られる為、像の形状と共に制作時期をある程度絞る上での参考とすることができる。
なお、これらの像は設置数を減らしていると解説される事もあるが、もともと設置された駅が3駅のみであった為、駅単体での数が減る事はあるが全体としての総数にほとんど変化は生じていないと考えられる。
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