田原町駅芸能紋調査


 

【1】1927年開業時の芸能紋

化粧パネルの下に眠っていた開業時の芸能紋

1927(昭和2)年の開業に際し設置された芸能紋は全36種、計108枚と言われており、レリーフ状の紋章が改札口などを除いた構内の梁部分に嵌め込まれるように取り付けられ、漆喰により固定されている。(公式の解説によると紋自体も漆喰によるものとされている)

紋章ごとの設置枚数や配列にあまり規則性は感じられず、ランダムに並ぶ定紋が六区へ向かう利用者の目を楽しませた事が想像できる。

これらの紋章は1984年に駅改修がなされた際、上から化粧パネルで覆われて見る事ができなくなっていたが、2018年に行われた2度目の駅改修で活用が決まり、現在は一部がホームから見られるような構造となった。

 

丸に三つ銀杏
大文字片喰
三つ並び杵 大割牡丹
四つ平角に筒守 イ菱
柳蛙
鉄砲菱に中柏
中津木瓜
祇園守(1)
菊鶴
重ね扇に抱柏
鳳凰
根上り橘
雪月花
重ね井筒
二つ松葉の丸に光琳の蔦
丸にいの字
丸に細笹リンドウ
三つ猿
丸に二引
(葉敷き向こう水仙)
亀甲に一葉紅葉
丸に片喰
(扇子と翁の面)
地紙に光琳の松
五つ鐶菊
三升の中に左
(祇園守(2))
揚羽蝶
亀甲に花菱
丸に三つ井桁
三升
亀甲に片喰
(九枚笹にトモの字(?)):持主不明
(花勝見)

 

調査したホーム上の配列は以下の通り。

B線
浅草寄
A線
役者
紋章名
柱番号
紋章名
役者
改札口通路により元々なし
21
欠落により不明
松本幸四郎
20
坂東三津五郎
杵屋六左衛門
市川中車
中村歌左衛門
19
中村芝鶴
欠落により不明
松本幸四郎
杵屋六左衛門
家元富士松加賀
松本幸四郎
18
欠落により不明
坂東秀調
中村鴈次郎
尾上菊五郎
片岡仁左衛門
市村羽左衛門
17
根岸若之助
清元宗家家元
持主不明
市川左団次
新国劇
坂東壽三郎
16
清元家家元
中村歌門
常磐津家元
市川松蔦
中村歌左衛門
中村吉右衛門
15
尾上菊五郎
根岸若之助
欠落により不明
市川左団次
歌舞伎座
中村雁次郎
14
尾上多賀乃丞
喜多村腰Y
改札口通路により元々なし
沢村源之助
伊井友三郎
13
帝国劇場
坂東壽三郎
市川中車
12
喜多村腰Y
坂東三津五郎
市川男女蔵
11
市川海老蔵
河合武雄
有無不明
中村芝鶴
10
市川羽左衛門
片岡仁左衛門
新橋演舞場
市川猿之助
松本幸四郎
中村吉右衛門
9
実川延若
市川松蔦
市川松蔦
沢村宗十郎/沢村訥升
坂東三津五郎
家元富士松加賀
8
杵屋六左衛門
実川延若
(解説脱落)
坂東三津五郎
沢村宗十郎/沢村訥升
尾上多賀乃丞
7
市川中車
改札口新設により消失
喜多村腰Y
(解説脱落)
市川松蔦
坂東秀調
6
市川猿之助
尾上菊五郎
中村芝鶴
市村羽左衛門
片岡仁左衛門
新国劇
5
河合武雄
中村歌門
市川海老蔵
中村吉右衛門
市川男女蔵
歌舞伎座
4
坂東三津五郎
市川左団次
坂東壽三郎
坂東壽三郎
帝国劇場
坂東三津五郎
3
尾上多賀乃丞
市川男女蔵
家元富士松加賀
河合武雄
帝国劇場
市川猿之助
2
伊井友三郎
沢村宗十郎/沢村訥升
常磐津家元
実川延若
1
沢村源之助
B線
渋谷寄
A線

 

(1)

2016年現在、駅改修や欠落などにより不明となっているものもあり、ホームに残存している事が確認できるものは36種90枚である。
また、過去の新聞に「全108枚のうち4枚は事務室内等に設置されている」との記述があるが、それらの報道の真偽・真相について現時点では確認することができず不明である。

 

(2)

現在では専ら田原町駅の装飾とされているこの芸能紋であるが、元々は田原町駅のほか浅草駅にも設置されていた。
しかし浅草駅のものは状態が非常に悪く殆ど剥がれ落ちてしまっており、田原町駅のように鮮明に残っているものは無い。1970年代の時点でも数枚、2016年現在では1〜2枚が断片的に残るのみとなっている。

 

(3)

画像の状態は、当時の営団総務部長が所属していた美術関係の集まりで話題に上ったことをきっかけに、1969年に清掃・塗装を行って復元し、白黒の2色によって塗り分けらた時のものである。
それ以前は埃や汚れが入り込んだまま壁と共に塗装されていた為、殆ど見分けがつかない状態であったといわれる。
この復元には上記総務部長の家族とその同級の美大生が携わり、時間を手間をかけて現在の状態にまで戻された。

A線浅草寄り、柱番号21〜19付近までの5枚に関しては、それよりも前から変電機器が設置され塞がれたようになっていた為か、他のものより比較的良い状態を保っている。

 

(4)

1971年には駅長及び助役が定紋の身元特定を行い始め、紋章の下部に手書きの解説を取り付けた。また、どうしても判明しない12種に関しても、駅ホームに一覧を貼り利用者からの情報提供を求めた事で殆どが判明した。
画像に写っている筆書きの解説はその際のものである。

ただし、A線柱番号17付近にある紋章だけは、36種のうち唯一現在も持ち主が判明しないままとなっている。
歌舞伎役者等の定紋として該当するものが見当たらず、設計者が遊び心で自身の紋など何らかの紋を作成して加えた、またはそもそも間違って作られた(!?)等、いくつかの推測もあるが、真相は90年近く経った現在も闇の中である(地下鉄だけに)。

 

定紋の解説や役者名は基本的に(4)の身元特定の際に取り付けられた解説書きに則っている。中には確証が無いと思われる記述も見られるが経緯等を踏まえそのままの内容を記載した。
解説書きに記載がないものに関しては考えられる名称を () 書きで当てはめている。

画像は冷房工事、駅改修等など様々なタイミングで撮影したものであるが、一部は保護網の外から撮影している為不明瞭なものがある。


 

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